知能検査の歴史
それでは、まずはIQという概念が成立した歴史的経緯を見ていきたいと思います。
アルフレッド・ビネーによって【IQ】が作られる
IQ(Intelligence Quotient)すなわち知能指数とは、知能検査結果の表示法の一つで、1905年にフランスの心理学者アルフレッド・ビネーによって作られました。
19世紀にも知能を測定しようと試みる研究者はいましたが、広く認知されるような検査法を確立できた人はいませんでした。
20世紀初頭にすべての子どもが通学する現代に近い学校制度の普及にともない、同年代の学力に本人の努力ではついていけない子どもたちの存在が浮き彫りになりました。新たに障害児教育という研究分野を開拓するためにはどうしても子どもの知能発達を知るための検査方法を作り出すことが必要でした。
つまり近代的知能検査のスタートは、子どもの知的能力を測るというよりも知的障害児を見わけることのみを目的に開発されたと言えます。
ウィリアム・シュテルンが「知能指数」「知能年齢」を提唱
1912年にはドイツのウィリアム・シュテルンが「知能指数」「知能年齢」という指標を正式に提唱しました。現在もこの概念が広く用いられております。さらに同年、アーサー・オーティスが「集団式知能検査」を開発しました。
この集団式検査では個別式に比べると精度は落ちますが、一度に大人数の検査が可能となるため、まず先に集団検査を行い、特徴的な結果が出た子どものみを個別に再検査することで時間の効率化が図れるようになりました。
「スタンフォード・ビネー式知能検査」が開発される
ビネーの知能検査が諸外国へ輸出される中、特にルイス・ターマンがビネーの検査を源流にしながらも大幅な改革を加えた、スタンフォード・ビネー式知能検査の開発は非常に広く知れ渡りました。ビネーが発達の遅い子どもの診断を目的としていたのに対し、ターマンは知的能力の高い子どもに強く着目していたところが大きな違いといえます。
日本での【IQ】検査開発の歴史
日本では1919年に久保良英によってビネー式の標準化が行われ、1930年には鈴木治太郎が「鈴木ビネー知能検査」を開発、1936年には田中寛一が独自の「田中A式知能検査」「田中B式知能検査」を開発し、田中はその後1947年にスタンフォード・ビネー式を元に4歳以下と11歳以上の検査の精度を向上させた「田中ビネー式知能検査」を完成させました。田中ビネー式はその後も改良・改定を重ね、2003年には第5版が発表されています。
現在、さまざまな用途の知能検査が多数存在する
また、ビネー式は成人の知能を検査するには向かないものであったため、成人向けの個別知能検査として1939年にニューヨーク大学付属ベルビュー病院のデビッド・ウェクスラーによって「ウェクスラー・ベルビュー知能検査」が開発されました。その後、様々な研究機関から対象年齢、被験者の特徴、所要時間、知能能力の種別などの目的に合わせた数多くの知能検査が何十種類も発行されています。個別式検査の多くはビネー式やウェクスラー式の利点をベースに、より目的に沿った改良を加えた面が散見されます。
IQと一口に言っても色々な検査があるんだね!
知能指数の計算方法と注意点
さてここからは、具体的なIQの計算方法や知能指数を考えていくにあたっての注意点などを見ていきます。
IQ(知能指数)の計算方法 :【知能年齢÷生活年齢×100】
IQは知能検査の結果で求められた知能の精神年齢=知能年齢(Mental Age 略称MA)を実際の年齢=生活年齢(Calendar Age 略称CA)で割って100をかける方法で算出します。
つまり、3歳の誕生日にちょうど平均的な3歳の知能能力が育っていれば、3.0÷3.0×100でちょうどIQ100ということになります。もしも3歳の時点で4歳児レベルの平均能力であったならば、年齢を月齢に換算して48÷36×100でIQは133となります。
ですから各研究機関の知能検査というものは1千~1万人以上もの被験者の協力を得て標準化を図ること、つまり同年齢での平均がほぼ100になるように設問を吟味して設計することで制作されています。
成人に対しての知能検査は基準が異なる
平均的な人間の知能能力は6歳ごろまで爆発的に伸び、その後15歳ごろまで緩やかに伸び続け、16歳を過ぎるとほぼ固定され、また老年になると下降していきます。ですから成人に対しては先ほどの知能年齢÷生活年齢という算出法では正確性を欠くため、同年齢集団内での位置を基準とした標準得点という考え方が加味された、偏差知能指数(Deviation IQ 略称DIQ)で診断されます。DIQの場合はよほどの特例を除き、上限が160程度になります。
知能検査を受けられる機関が少ない理由
一般的に知能検査を受けられる機関はさほど多くありません。それは、IQに対する正しい知識がなければIQの数値でむやみやたらと一喜一憂したり、相手に偏見をもったり、誤解や間違った認識が広まったりと、マイナス面の影響が予測されることも理由の一つです。
知能検査の販売を扱う専門店や検査を実施する担当者は日本心理検査協会倫理要綱に則り、己の良心と倫理観にかけて検査問題が世間に散逸しないよう努力しています。
知能指数の「落とし穴」
よく陥りやすい落とし穴として、まだ幼稚園のわが子に「この子はIQ90だから一生優秀になれない」と決めつけて悲観したり、逆に「この子は4歳でIQ130だから勉強しなくてもずっと成績優秀だ」なんて誤った思い込みを抱いたりすることがあります。
中には「うちの子はIQ130もあるので、かえって発達に障害がないか心配です。まだ4歳なのに携帯メールを漢字変換使って打てるなんて異常でしょうか。」などと考えるお母さまもいらっしゃるくらいです。幼児期のIQ数値に一喜一憂してしまうのは、成人のDIQと混同している場合が多いでしょう。
しかし、先ほどの知能指数算出方法を正しく理解していれば、このような考え方をするはずがありません。3歳の誕生日を迎えた時に発達が1年程早ければIQは133、2年程早ければ167、3歳で知能発達が3年程早ければIQは200になります。
このような育児を実践することは世間で思われているほど難しいことではありません。3歳までの脳の成長スピードは凄まじく、「偶然に任せた育児」で3年間を過ごすことが大半である現状を平均値とすれば、両親から「必然的な適期教育」を丁寧に与えて育てられた子どもは「発達が早い」と言われる結果になります。
しかし、3歳以降はMA(精神年齢)とCA(生活年齢)の関係を正しく理解していないとIQの数字に踊らされることになってしまいます。3歳でIQ150を達成するには、MAが4歳半の能力であればいいのです。その後もMAが1年半進んでいる状態をキープできたとしても、4歳でIQ138、5歳でIQ130、6歳でIQ125と徐々にIQは下がってしまいます。
これはIQの算出方法による数字のマジックです。つまりIQ150を維持するには3歳ならばMAが18ヵ月進んでいればよかったのに対し、6歳では36ヵ月分も進んでいなければなりません。3歳から6歳の3年分を合わせても脳の成長は2歳台の1年分よりずっと少ないので、3歳時点のIQを6歳まで維持することはなかなかできることではありません。先述の通り、3~4歳のわが子に「知能が高すぎて、発達に障害が出ないか心配」など感じることはまったく無用な心配だと言えましょう。
IQを数字だけで考えてしまうと支障がありそうだね。しっかり理解してIQを使っていけるようになるといいね。
「お受験」をする場合のIQのあり方について
難関私立小学校に合格する子どもたちの平均IQは130と言われており、公立小学校では同じクラス、同じ年齢でも精神発達の早い子と遅い子では3~4年相当の開きがあると言われています。
一般的な3歳頃からのお受験教室では目標の学校に合格するために、3歳までに特別な教育を受けることなしに育ってきたIQ100程度のお子さまの知能を6歳までの3年間、或いはそれより短い期間で30以上上げようとします。だから非常に厳しく苦しい3年間を送る子どもたちも多くいるのです。
しかし、もし3歳の時点でIQ161あったならば、幼稚園時代にのびのびと過ごしながらMAのアドバンテージをただ維持するだけでも6歳でのIQ130を達成できます。6歳時点で同じIQとなったとしても、幼稚園時代の3年間の過ごし方が大きく変わってくるといえます。
IQ、知能指数という指標を正しくとらえて賢く使う
それでは、私たちはこのIQ、知能指数という概念をどのように捉えて、どのように使うべきなのでしょうか?
知能指数は一つの成長の目安にすぎない
人間の能力、まして長い未来を持つ子どもたちの能力を、IQや知能検査結果を用いて数値に換算することは人間の傲慢であると考える方もいらっしゃいます。その考え方は当然のものです。
ただし、知能検査というものは人間の能力のある一定の部分のみを測定するにすぎません。例えば100m走のタイムは明確な数値に換算することができますが、その人の体力や身体能力すべてを表すものではありません。しかし、その人の運動能力の一端を的確に把握する目安には十分なり得ます。目安があれば次の目標を決めやすくなり、結果として効率の良い体力アップにつなげることができます。
IQや知能指数も同じようなものと理解すれば、必要以上に嫌うことなく、また自慢するようなものでもないと思えるのではないでしょうか。IQという指標を用いてわが子の知能発達状況を把握し、適切な教育を与えるための目安にすることが大切です。子どもたちの脳は大人に比べて凄まじい勢いで成長しており、そのおかげで何でもすごいスピードで学ぶことができます。この貴重な時間を最大限有効に活かすためにこそIQデータを活用したいものです。
IQとEQ(心の知能指数)の発達は比例することを知る
ターマンの時代は、赤ちゃんは何もわからない白紙の状態で生まれてくると思われていたので、現在以上に早期教育や英才教育に対する批判は大変強いものであったようです。しかし、ターマンはその反発に屈せず1920年代から約1,500人のIQ138以上の子どもを40年近くに渡って追跡調査し、IQの高い子どもの特徴や社会においての生き方、人生などの特徴をまとめました。
IQ138以上とは、東京大学・京都大学に現役や一浪くらいで合格する程度、つまり大体その国の最高学府のレベルと考えられています。ターマンがまとめたIQ138以上の子どもが大人になった時の標準的人格面の特性をご紹介します。
- 誠実・正直・同情・私欲の無さ、心の強さ、リーダー性、人気、責任感、尊敬されやすい、といった特性において標準より優れている。
- 子ども時代、活発な遊びを好み、好んで集団の中に入っていく。孤独を嫌う。しかし将棋やチェスなどの知的少人数ゲームを好む傾向は強い。また好む遊びの種類が豊富である。
- 道徳的知識に優れ、社会適応性が高い。
- ルールのある遊びについての理解が標準的な子どもよりも優れており、複雑なルールのある遊びを好む。
- 遊びの興味・関心の成熟が早いために、自分よりはるかに年上の友だちを多く持つことが多い。
- アメリカでは年収で社会的地位を判断されることが多いので、その調査結果ではIQが高い人物は低学歴でも、高学歴の人物より年収が高いという結果が出た。
このようなターマンの研究結果から、知能の高さと心の豊かさは反発するものではなく、むしろ共存するものであり、知能が高いからこそ心の豊かさが発達するという考え方の近代的な研究に着手する人が現れ始めました。実はEQ(心の知能指数)が高い人ほどIQが高いということはデータとして立証されつつあるのです。
IQを正しく理解し、客観的な子どもの成長の指標として活用しよう
IQはしばしばそのことばが独り歩きしやすく、ともすれば頭が良い・悪いのような感情的な表現に使われがちです。しかし、IQはあくまでその人の知能の発達を測るための指標でしかありません。
IQを過大にとらえず定義や計算方法をよく理解し、その数値から子どもに適切な教育を与えてこそ意味のあるものです。また、適切にIQを伸ばしていくということは、子どものこころの発達(EQ)にもよい影響を与えます。
IQに振りまわされず、子どもを正しく客観的にとらえられる親でありたいものですね。
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