「映像」の多すぎる情報に乳幼児の頭脳はまだついていけない
乳幼児の脳は凄まじいスピードで様々な情報を取りこんで、それらの意味を解釈しようとはたらいているため、目や耳から飛びこんできた情報のすべてを整理しようとします。
しかし、まだ物と言葉が結びついている量が極端に少ない状態だと、多すぎる情報は教育になるどころかむしろ頭脳を混乱させるばかりで、概念理解の発達を妨げてしまいかねません。すなわち、TVやDVDが乳幼児の言葉の発達を遅らせることになってしまいかねないのです。TVやDVDといった映像メディアの特性を考えることで、長所も短所も見えてきます。
「言語メッセージ」と「映像メッセージ」の違い
まず、映像メディアの発達以前に主流であったメディアが伝達するものは、音声や文字による「言語メッセージ」であったといえます。
言語メッセージでは基本的に一つの言葉は一つの概念の意味を持ちます。その意味が一つにせよ二つにせよ発信者は必ずその言葉に明快なメッセージを持たせようと、文章構成を工夫し誤解を招きそうな無駄な表現をそぎ落とすという作業に時間をかける努力をしています。
ですから言語によるメッセージは、そこそこ正確に情報を伝達することができます。
「映像メッセージ」は雑多で膨大な情報が盛り込まれている
それに対して、映像メディアが提供するものは「映像メッセージ」です。
大多数の映像メッセージには、雑多で膨大な情報が盛り込まれています。例えば講師がお伝えする映像メッセージには教室にあるカーテンや引き出しなどが映っていますが、お伝えしたいメッセージそのものにはまったく関係ありません。しかし、教室らしさを演出したり暖かな色合いという情報をお送りすることは、視聴者の皆様に全国の仲間と一緒に育児について学んでいこうという意識を呼び起こす効果があります。
この特性を長所として考えますと、受信者が多様な解釈を楽しんだり、あるいは独自に問題を発見したり意味を再構成してみる自由さも生まれます。それは一方的で受動的なものではなく、むしろ能動的であるとさえ言えます。これを教育に適切に用いれば学習の強い動機づけにすることが可能です。そして映像を使えば、質は少々落ちても同じ動機づけを大人数に対して手軽に実施することができます。
映像メディアの落とし穴
実は映像メディアは、受信者が発信者の隠された意図に誘導されてしまいかねない危険性も孕んでいます。一部の映像だけを見て、それを全体のことだと思いこんでしまいがちなことも映像メディアの特質です。
例えば東日本大震災以前には、海外で津波や地震、火災などの大規模な被災があった時に、その映像がテレビのニュースで頻繁に流されることがあったと思います。それを見ていた子ども達が突然泣いたり、吐いたり、睡眠障害に陥ったりという心理的問題が現れたという報告が多く集まりました。
現在、テレビ局では被災映像を流す前に字幕で注意喚起するといった配慮がおこなわれるようになりましたが、人生経験の少ない幼い子どもほどTVなど映像から得た情報が、世界のすべてであるかのように思いこんでしまいがちなものです。この事からも、幼児期に与える映像メディアについては、慎重に内容を吟味して与える必要があるとわかります。
乳幼児の教育に必要な映像教材の条件
3歳未満の脳は与えられた膨大な情報をすべて分類・整理しようとするため下手な映像情報は混乱を招き、子どもの概念発達の邪魔をするばかりになります。大人の脳は映像の中に自分の見たいものや聞きたいものを選ぶことができ、それに集中すると他の情報を意識の外においやるという能力が育っています。
乳幼児には音声と映像が結びつきやすいシンプルな映像教材がよい
そう考えると、乳幼児の教育に必要な映像教材の条件とは「音声と映像が結びつきやすいシンプルなもの」ということがわかります。そのため最初のうちは、フラッシュカードのように「結びつけたい情報が1対1で対応しているもの」がよいのです。
例えば、白い画面の中にリンゴが一つだけ描かれています。大人はリンゴがバスケットに入ってテーブルの上に置かれている絵だったらより一層素敵だと感じるでしょうが、子どもにとっては違います。リンゴそのものと「リンゴという音声情報」が確実に結びつき、簡単には忘れないレベルまで定着するまでは他の視覚情報は不要な情報として処理されます。
子どもは「リンゴ」の理解ができると、今度はリンゴとともに頻繁に登場する情報を新しい概念として意味づけしていきます。リンゴとミカンとバナナを十分に理解した子どもに対して、それらを一緒に登場させ「果物」という音声情報を与えれば、子どもは分類上リンゴよりも上位概念である「果物」の意味を認識し始めます。
幼い子どもが求めているのは「なんとなくわかったような気がする曖昧なもの」ではなく、理解しやすい端的な知識・情報や、あるいはどのようにすれば自分の内面の思いを相手に伝えることができるのかという具体的な方法です。
初めて子どもにTVやDVDを与える時の目安
子どもの言葉がある程度発達していることが不可欠です。その目安としては3つあります。
- 大人の声がけに対して適切な行動でこたえられること。
- 絵や実物を見て名前を言えるものが10個以上あること。
- できれば2語文が出ていること。(ママ、いた。ママ、ねんね。など)
これらができるようであれば、実際の月齢に関わらずTVやDVDなどの映像メディアを少しずつ与えても大丈夫な時期がきたといえるでしょう。まだ「画面に登場する情報ができるだけ少なく、情報同士を関連づけやすい映像であること」が大切です。
お母さんがTVやDVDの情報をチェックしてみよう
子どもが寝ている時などに、幼児向け教育番組やお手元にある幼児向けのDVDをご覧になって、映像内の情報をチェックする観点の練習をしてみてください。
- 画面の中に伝えたいことと関係ないものが複数映像に映っていないか。
- 言葉がわからなくても、音声が映像の中のどれを示しているのかを簡単に結び付けられる構成になっているか。同時に流れる音と映像が一致しているか。
紙しばいのように絵と絵の間がどのようにつながっていたのかを子ども自身がイメージできるようなものが望ましいです。
お母さんの映像メディア吟味力がアップすれば、どのような番組ならば今のわが子に与えてよいのか今後も自身で判断していけるようになります。育児を楽しむと同時に、お母さんの感性に磨きをかけていくことも楽しんでしまいましょうね。
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