子どもの「抽象化能力」の育て方~実践編:抽象化能力を育てる子どもとの遊び方について~

No.194更新日付:2024年11月14日

近年、教育に関するキーワードでよく目にする「抽象化能力」という言葉があります。一見難しそうな言葉ですが、中学受験の問題などでも問われることの多い、また子どもの将来が充実したものになるためにも重要な能力といわれていることは、コラムNo.166「幼児期の子どもの「抽象化能力」の育て方」でもお伝えしたとおりです。

こちらのコラムではさらに実践的に、具体例を用いて抽象化能力の育て方や、抽象化能力が高いとできる事について解説していきます。よかったら読んでみてくださいね。

「抽象化」とはそもそも何か?

業界やジャンルを問わず「優秀な人」「問題解決能力の高い人」「論理的な人」「仕事ができる人」は、「抽象化能力が高い」といわれます。

 「抽象」という言葉は「あの人の話は、抽象的すぎてよく分からない」など、あまりよい意味で使わないケースが多いですが、それは誤ったイメージです。「抽象化能力」というのは非常に重要な能力ですから、正しく理解し子どもたちを伸ばしたいところです。

 「抽象化」とは、「言葉を上位の分類に置き換えていくこと」「上位概念に置き換えて、一般化すること」です。

 例)生物>動物>脊椎動物>哺乳類>犬>テリア>ヨークシャーテリア

「抽象化能力」が高いとできること

「犬」と「猫」は単純に容姿だけ見れば似ていません。しかし、抽象度を上げることで「四本足で歩く」「赤ちゃんは親と似た姿で生まれ、お乳で育つ」「赤い血が流れ、気温が変化しても決まった体温を保つ」など、共通点を見つけることができます。

 「抽象化」とは、「いくつかの具体物において共通する点を見つけ、一つの概念にまとめること」です。

 生物>動物>脊椎動物>哺乳類>犬、などは、すでに過去の人々が

  • 「犬というグループのもつ共通点」
  • 「哺乳類というグループのもつ共通点」
  • 「動物というグループのもつ共通点」
  • 「生物というグループのもつ共通点」

などを、誰でもが使える「一般化された概念」としてまとめてくれたものです。

①一つの物事に対して、抽象度・具体度を幅広く置き換えられる

抽象化能力が高い人は「一つの具体物に対して、抽象度・具体度を何段階にも幅広く置き換えること」ができます。具体的には以下のようなイメージです。

例)飲食物>飲み物>お茶>紅茶>ダージリン

次の文章には、どの抽象度の単語を入れるのが適切でしょう?

  1. 喉が渇いたから、何か冷たい「     」が欲しい
  2. 食後にはコーヒーか「     」のどちらがよいかしら
  3. この専門店はアッサムや「     」など種類が豊富に揃っている
  4. 劇場内には「     」の持ち込みはご遠慮ください
  5. 遠足の飲み物は、甘くない「     」がよいね

抽象化能力の高い子は、上記のような問題が出た際に頭の中で抽象度・具体度を置き換えて考えるのが非常に早く正確になります。

②複雑な状況や出来事の本質を短い文章に整理できる

抽象化能力が高いと複雑な状況や出来事の本質を、短い文章に整理することが容易になります。

例1)飲食店のアンケート

  • おかわりしたかった
  • 店を出て、すぐにお腹が空いた
  • 美味しかったが、内容的に高いと思った
  • もっと食べたい

抽象度を一段階上げると、すべて共通するのは「量が少ない」であり、すべてはそこから発生している問題だと分かります。具体的に書かれている「おかわり」や「価格」について検討するより先に、「最初の提供量が少なすぎないか?」という問題について検討する必要のあることが見えてきます。

 例2)「僕は日本の中だけじゃなくて、世界中を旅してみたいんだ」

 具体的な文字通りに受け止めることしかできなければ、この希望を叶えるには「外国に行く」という方法しか見出せません。しかし、次のように解釈するとすぐに実践できる行動を見つけることができます。

 「日本←→外国」

=「よく知っているところ←→知らないところ」

=「狭い範囲←→広い範囲」

=「世界の一部←→世界全体」

 このように解釈することができれば、「まだ知らないところにたくさん行ってみたいんだね。じゃあ世界旅行の手始めに、まだ行ったことのない隣の駅に行って街中を散歩してみようか」「休みの日を利用して、日本の中のいろいろな特徴のあるところに行ってみよう。そうすれば、いつか海外に行った時にも似ているところや違うところが分かるからね」と伝えることができます。

③一つの経験から得た学びを異なる場面で応用することができる

抽象化能力が高いと、一つの経験から得た学びを違った場面で応用することができます。例えば以下のようなイメージです。

「お年寄りに席を譲るのはよいことだ」

具体的なことしかできない子は、「お年寄り→席を譲る→よいこと」という判断しかできません。それ以外に応用が利かないのです。

「お年寄り>体調が万全ではない人」

として抽象度を上げて考えられると、今度はそれを複数の具体化に当てはめて、「体調が万全ではない人>お年寄り・怪我人・病気の人・妊婦さん・障害のある人・とても小さい子」など、いくつも応用して考えることができます。

また、「席を譲る<困っている人を助ける」と考えられた子は、乗り物の座席という小さなシチュエーションから大きく離れて、「困っている人に手を差し伸べるのはよいことだ」というより大きな学びに転換して考えることができます。

「一を聞いて十を知る」「枝葉末節にとらわれず物事の根幹を見抜く」というのは、抽象化能力が高いということです。お子さまの抽象化能力を大きく育てていきましょう。

抽象化・具体化の振り幅が大きい人が「抽象化能力が高い」

  • 生物>動物>セキツイ動物>哺乳類>犬>テリア>ヨークシャーテリア
  • 飲食物>飲み物>茶>紅茶>ダージリン
  • 困っている人>体調が万全でない人>お年寄り

上記の事柄は右に行くほどより抽象的で、左に行くほどより具体的です。便宜的にこれを「抽象度スケール」と呼びます。

「抽象化」は「言葉を上位の分類に置き換えること」です。

「具体化」は「言葉を下位の分類に置き換えること」です。

今回の例示では左に行くほど抽象度が高く具体度が低くなり、右に行くほど具体度が高く抽象度が低くなる、という言い方ができます。抽象化能力が高いと、いったん抽象化して深く解釈した事柄に対して、今度はそれに当てはまる具体的な事例を数多く思いつけるようになります。

このように、抽象度スケールを左へ右へと自在に行き来できる人こそが「抽象化能力が高い」といえます。これこそ、まさに「活きた問題解決能力」です。

(右へ行くときには「具体例を数多く思いつける」という意味も含みます)

「優秀」「問題解決能力が高い」「論理的」「仕事ができる」といわれる人達は 

  • 抽象度スケールを適切な位置まで左に進み、適切な表現に置き換えて深く理解する
  • 次にスケールを右に移動し、理解した事柄に当てはまる具体的な事例を複数思いつくことができる

という、この思考活動のスピードが格段に速いのです。

「具体的なものを思いつける」というだけでは問題解決には至りません。

まず、先に「抽象度を上げて枝葉の部分を削ぎ落し、物事の本質を見極め把握する」ということができなければなりません。そのうえで具体的な事例に落とし込めれば、次に何をどうすべきかを適切に考えることができます。「抽象度スケールの振り幅が大きく、速い」ことは、とても大きな価値のあることだといえるでしょう。

「抽象化能力」の育て方について

では、ここからは非常に重要な「抽象化能力」を、どうやってお子さまに育ててあげられるかについてご説明していきます。

①単語・文・文章の抽象的置き換え

抽象化能力の第一歩は、簡単な単語を使って「抽象←→具象」の置き換えができることです。抽象化する時には「つまり」という言葉を使うと便利です。

つまりなにクイズ

「にんじん・じゃがいも・たまねぎ、つまり、なに?」「つまり、野菜」

「シャツ・ブラウス・ズボン、つまり、なに?」「つまり、衣服」

 その時「そうね、服ね。衣類という言い方もあるね。」と、子どもの答えを肯定する形で新しい語彙にも触れさせます。

 レベルアップ(動詞)

「シャツを着た、ズボンをはいた、帽子をかぶった。つまり、なに?」「つまり、衣類を身に着けた」

「にんじん・じゃがいも・たまねぎ、つまり、なに?」

「つまり、カレーの材料」「つまり、土の中で育つ野菜」

レベルアップ(適切な抽象度を選択する練習)

「たしざん・ひきざん・かけざん、つまり、なに?」「つまり、計算」

「たしざん・ひきざん・図形、つまり、なに?」「つまり、算数」

「リンゴ・ミカン・モモ、つまり、なに?」「果物」

「リンゴ・ミカン・ケーキ、つまり、なに?」「食べ物」

「リンゴ・ミカン・ケーキ、つまり、なに?」「デザート」

②単語・文・文章の具体的置き換え

言葉の置き換えを具体的にする練習では、「いくつも思いつく」という点を重視しましょう。

 「古今東西ゲーム」

「古今東西、魚の名前」しりとりのように順番に「サンマ」「タイ」「マグロ」「コイ」など答えます。大人がなるべくいろいろな単語を出し、定期的に同じお題で遊ぶようにすると効率的にお子さまの語彙を増やせます。お題の工夫が親の腕の見せどころです。

「古今東西、掃除の方法」「ほうきで掃く」「雑巾でぬれ拭きする」「雑巾でから拭きする」「掃除機をかける」「はたきをかける」「モップで拭く」など、単語ではなく文で答える必要のあるお題など、いろいろと考え楽しみましょう。

 

③ことわざ・慣用句・故事成語の活用

「ちりも積もれば山となる」「蒔かぬ種は生えぬ」など、ことわざや故事成語は価値ある教訓やよくあるシチュエーションを抽象的に言い表しています。子どもとの会話の中に積極的に取り入れることで、出来事の大枠を抽象的に捉える力が育ちます。

④物語の主題について考え、話し合う

長い間読み継がれている名作絵本には、人間的な成長を促すテーマが込められています。しかし、それは具体的には描かれていません。物語に登場する具体的なエピソードは、どんなことを象徴しているのか? それを子どもと話し合うことは、抽象化能力を大きく伸ばします。

例)「とべ ばった」(抜粋・要約)

小さいしげみの中にバッタが一匹隠れすんでいた。そこには恐ろしいものたちがいて、バッタを食べてしまおうと狙っていた。バッタは毎日びくびくしながら暮らしていた。しかし、バッタはこんなところでおびえながら生きていくのが、つくづく嫌になった。

ある日、バッタは決意した。バッタは、大きな石のてっぺんで悠々とひなたぼっこを始めた。やっぱりヘビにみつかってしまった。カマキリも襲いかかってきた。バッタは、死に物狂いで跳んだ。バッタはついに何よりも高く登りつめた。しかし、バッタはもうそれ以上登る事ができなかった。

バッタは、下へ下へと落ちていった。バッタは自分の背中についている四枚の羽に気付いた。それは今までに一度も使った事のないものだった。もうだめかと思った時、バッタは夢中で羽をばたつかせた。すると、体が急に軽くなってバッタは浮き上がった。バッタは飛んだ、高く高く。自分の羽で、自分の行きたいほうへ風に乗って飛んでいった。

  • 「恐ろしいものたち」→具体的:「ヘビやカマキリ」→抽象的:「生活の中で出会う困難」
  • 「こんなところ」→具体的:「バッタの隠れ住んでいる小さいしげみ」→抽象的:「困難を乗り越えようとしない自分自身の現状」
  • 「バッタが決意し、ひなたぼっこを始めた」→「困難に立ち向かうための、具体的行動を起こした」
  • 「四枚の羽」→「自分の中に眠っている未知の力」

この話からは、具体的なエピソードだけではなく「精一杯の努力をした時、自分の中に眠っている、まだ気づかなかった力に気がつくものだ」「人は、自分で自分の限界を勝手に作り出してしまっているもので、その限界は超えることができる」といった抽象的なテーマを読み取ることができます。

名作と呼ばれる絵本は、心を打つテーマ、人間的成長を促すテーマが込められているからこそ、長年読み継がれてきているのです。幼児向け絵本でも抽象化能力を伸ばす深い読み方をすることが可能です。

まとめ:日々の遊びの中で子どもの「抽象化能力」を育ててあげよう

いかがでしたでしょうか?

肝心なことは、親が「抽象化・具体化」や「抽象度スケール」について常に心のどこかに留め置き、時折り触れて考えることです。常日頃から抽象化の重要性を意識し「子どもに伝えられる機会があれば積極的に活かそう」と思っていれば、高確率でチャンスを活かすことができます。

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