子どもは「目先の利益」を最優先してしまうもの
大人への道の始まりは「未来予測」です。理性行動への第一歩は「未来予測能力」の発達です。幼い子どもは時間感覚が未熟なために、どうしても「目先の利益」を最優先してしまいます。
「マシュマロテスト」について
このコラムを読まれている方で、「マシュマロテスト」という実験をご存じの方はいらっしゃいますでしょうか?「マシュマロテスト」は心理学の分野で知られる有名な実験のひとつで、1960年代にスタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェル(Walter Mischel)によって設計され、実施されました。
被験者である幼児や小学生の子どもが、実験者から「マシュマロを1つあげるけれども、もし15分食べずに我慢できたらもう1個あげるよ」と言われた際に、どの程度我慢できるかを見ていきます。
この実験の結論として、「4歳児の平均我慢時間は2分」「4歳児で15分我慢できた子は全体の25%」、さらに長年の大がかりな追跡調査の結果「我慢できた子のほうが将来の学業成績がよく、社会的にも成功している」という結果が出ました。
「理性的な行動」ができる子がその後の人生でよりよい影響が出る、ということが明確になったのです。
子どもが「理性行動」をとれるために親が認識すべき点
「マシュマロテスト」のような話を聞くと、親としては子どもに「理性的な行動」ができるようになってほしいと感じるのは当然のことと思います。
では、子どもが理性的な行動をとれるようになるために親にできることはあるのでしょうか?
まず前提として、「理性行動」は高度な思考の発達によって実現可能になっていくものです。叱りつけて意志の伴わない条件反射で身に付けさせるような「行動パターン訓練」ではありません。
また、マシュマロテストができるようになっても、それは「理性行動」の第一歩です。3~4歳の子どもにとっては、まだできないことのほうが多いのです。子どもの能力を超える課題を押し付けないように親が十分配慮することが大切です。
たとえば、飴の袋をバッグに入れていることを知りながら、飴を我慢させるのは無理ですし酷です。子どもに飴の袋をもっていることに気付かせてはいけません。また、必要量以上のお菓子を持ち歩かないようにしましょう。
「理性行動」のシステムについて
さて、ここからは人が「理性的な行動」をする時、どのように考え判断しているのかを見ていきます。特に今回は【大脳皮質】と【大脳辺縁系】という脳の機能の側面から、どのように人が理性的な判断に至るかを解説していきます。
◆【大脳皮質】の役割
- 今そこに存在しない未来の結果を予測します。
- 論理的に矛盾のない結果を選択します。
- 行動選択の決定権というものは一切与えられていません。
◆【大脳辺縁系】の役割
- 今現在の状況に対してしか判定をくだすことができません。
- 環境からの情報入力に利益・不利益の価値判断をくだし、与えられた状況に応じた適切な行動を選択します。
具体例:部屋をそうじする場合
◆1.大脳皮質が「部屋の掃除をする」という認知をします。この時点では、まだ脳内に論理的矛盾はありません
◆2.この認知結果に対して大脳辺縁系が判定をくだしますが、ここで判断に矛盾が発生します。
「よい事だ」=利益、という考えと、「面倒くさい。やりたくない」=不利益、という考えが大脳辺縁系の中で生じるのです。
この葛藤を天使と悪魔のささやきで表現すると、「悪魔」は大脳辺縁系の判定です。大脳辺縁系は「今、その瞬間に得ることが可能な利益」(現実の困難からの逃避や単純な欲求充足行動)を優先します。
いっぽうで「天使」は大脳皮質の未来予測です。大脳皮質では「今、我慢してこういう行動をすれば未来により大きな利益が得られるという可能性」を考慮しています。
◆3.大脳辺縁系と大脳皮質の意見が合致しないので、このままでは「部屋の掃除」は実行されません。そこで理性を司る大脳皮質は「矛盾しない、より大きな未来報酬」の予測を導き出して、大脳辺縁系を説得し理性的行動を実現しようとします。
「ママにお片付けって言われたけど、面倒くさいなぁ」【大脳辺縁系】に対し、「片付けたら部屋がきれいになって気持ちいいよ」【大脳皮質】、「どうせやることになるなら、今やった方が後で楽だよ」【大脳皮質】、といった感じです。
◆4.ついに大脳辺縁系の中で「今やったほうが利益が大きい」という判定がくだされます。矛盾は解決され、理性行動が実現します。
理性行動とは本能行動や情動行動では判定することのできない未来の結果を予測し、より価値の高い行動を選択するために存在します。このように、理性行動は脳内での【大脳皮質】と【大脳辺縁系】との葛藤のなかで、最終的に【大脳辺縁系】が合理的な未来予測にもとづく行動をとること、といえます。
子どもの「理性行動」を増やすためには
このような脳のシステムを知らないと、理性行動のためには「感情を抑えこんで、理性を優先させるべき」と考えてしまいがちです。この誤解が理性行動をより難しいものにしています。
感情は抑えこむべきものではなくて、説得し納得させるべきものです。理性行動を増やすには、理性が導き出した「未来予測・未来報酬」が確実に得られるという実体験を増やしてあげればよいのです。反対に未来予測が実現しない経験をくり返すと、大脳辺縁系は「そんな未来は嘘だ。そんな利益は存在しない」と判断してしまいます。
子どもの「理性行動」を発達させるための親の取り組み
では、ここからは子どもの「理性行動」を増やしていくために、親ができる取り組みについて具体的に見ていきます。
1.「感情の大脳辺縁系」を説得する手助けをする
子どもが容易に実現可能な努力によって得られる「未来報酬予測」をする手助けをします。言葉で教えたり考えさせたり、臨機応変に対応しましょう。
なお、「教えられたこと」よりも「自分で考えついたこと」の方が実現後の喜び(報酬)が大きくなります。そのため親は手助けはしつつも、子ども自身が考えて決断した形にもっていくことがベターです。
2.子どもに「未来報酬予測が実現する経験」の蓄積をさせる
子どもの「行動」の後に「未来報酬予測」が必ず実現するよう配慮しましょう。
「行動」に要した努力や我慢が苦痛を感じるレベルだと、利益よりも不利益の方が大きい結果だった、と学習してしまいます。だから常に「その子にとって、少し頑張れば届くハードル」を設定することが肝心です。
まとめ:子どもの「理性行動」発達の秘訣は「感情を抑えこむのではなく納得させること」
いかがでしたでしょうか?
子どもが理性的な判断をくだせるようになるには、感情【大脳辺縁系】を抑えこもうとするのではなく、感情を説得し納得させること【大脳皮質】が大切です。
人間は誰しもが毎日この葛藤の中で判断をくり返しています。いっぽうの感情を否定するのでなく双方の感情を並べて判断できるように、毎日少しずつ親が手伝ってあげるようにしましょう。
#ベビーパーク #キッズアカデミー #TOEZアカデミー #幼児教室 #親子教室 #幼児教育 #知育 #知能教育 #英語育児 #子供 #判断力 #理性