母乳育児を正しく知ろう~出産直後は母乳が出なくて当たり前
先述しましたように、最近多くのお母さんが母乳育児に苦労する最大の要因として、母乳育児についての正しい知識が世の中に広まっていないことが挙げられます。哺乳動物の妊娠したすべてのメスが乳汁を分泌するというのは大自然の摂理です。人間だけがその摂理から外れるはずがあるでしょうか。
産後48時間以内に3ccでも乳汁が分泌したならば、それは間違いなく母乳の出るおっぱいです。この重要な基本原則を多くの医療関係者までもが誤解していることも、母乳育児の苦労の原因の一つといえるでしょう。
新生児に粉ミルクや糖水を与えることは自然な母乳育児の確率を妨げる医療介入の一つなのです。出産後24時間は母乳が一滴も出ない、退院する頃まで1日の分泌量は30㏄未満でも何の心配もいりません。当たり前の状態なのです。
母乳育児のすばらしい仕組み
赤ちゃんにとって母乳がもっともすぐれた栄養源であるということは疑う余地がありません。母乳の知識をより詳しく知ることで、赤ちゃんをより一層健康的に育てることが可能だと考えます。
母乳は子どもの状態に合わせてオーダーメイドされている
例えば、早産のお母さまの母乳は正期産の場合と比べて脂肪濃度が高く、タンパク質やナトリウムの量も多いのです。つまり未熟に生まれた赤ちゃんの成長を助けるように母乳成分が自然に調整されているのです。
また、1回の授乳中にも母乳の成分は変化しています。飲み始めの母乳は脂肪量が比較的少なく味は淡泊なので食欲が進むようになっています。ところが飲み終わる頃になると脂肪の量が増えて濃厚な味になるので赤ちゃんは自然に満腹感を覚えます。ですから適正な母乳育児の赤ちゃんは肥満になる心配がありません。
さらに、不思議なことに前回飲んだ量を母親の脳は記憶しており、次回の授乳時には前回の量をわずかに上回る程度の母乳が分泌されます。母乳育児の解説書などで、「授乳後には乳房にたまったお乳を搾乳して空っぽにしておきましょう」と書かれてあるものがありますが、極力それは避けるべきだと考えます。
空っぽにしてしまうと、お母さまの脳は赤ちゃんがそれだけの量を飲んだと勘違いして、現在の赤ちゃんに必要な量以上の母乳を分泌してしまいます。その結果、悪循環を生み出し、乳腺炎などおっぱいトラブルの原因になります。「ほぼ空っぽだけど、まだほんのわずか残っている」と感じる程度で授乳を終えるのがベストと考えます。
世間の「標準」を気にする必要はない
赤ちゃんは一人一人生まれてきた時の体重も、日中の活動量もまったく異なりますから、粉ミルクのように「標準」が同じとは限らないのです。母乳はまさにその子ただ一人のためだけに調整された栄養バランスであり、分泌量はお子さまの成長に合わせて細かく自然制御されるのです。
世間では、これまた「標準」と比較して「赤ちゃんの体重の増えが悪い場合には粉ミルクを足す」という指導法が蔓延していますが、この考え方は危険だと思います。世間の「標準」など気にせず、わが子のありのままをつぶさに観察して、「わが子限定の普段の様子」を見つけ出すことが大切です。
赤ちゃんが母乳を吸いだすにはある程度練習が必要です。ですから生後すぐの赤ちゃんは乳頭をくわえていてもほぼお乳が飲めないまま疲れて眠り、でもお腹が空いていればすぐにまた起きておっぱいに挑戦します。これを何度も繰り返すうちに、赤ちゃんは必要な動きも筋力も身に付けるのです。
生後5日間程度で分泌される初乳は成乳(通常の母乳)と比べると、成長に必要なタンパク質を倍以上も含んでいますから、産後3日くらいは母乳が10cc程度しか出なくても赤ちゃんの体重が減ってもまったく心配いりません。この時期に病院で粉ミルクを与えられてしまうことが、母乳育児が軌道に乗らない要因の一つでもあるように思います。
母乳育児をすることでスキンシップが増える
母乳育児の他のすばらしい点は、スキンシップ量が増えることです。現在すっかりミルクで育児なさっている方でもまだまだ母乳が出る可能性は十分にありますが、様々な事情で母乳はやめてミルク育児を決めた場合もあるでしょう。
1回のミルク量が多いのでよく眠るのは大人にとって大変ありがたいものですが、母乳育児と比較するとどうしても刺激を与えてあげる、抱っこをする回数が減ってしまうこと等が懸念されます。それを補完するためにはできるだけ意図的にスキンシップをとるようにしましょう。
母乳育児は赤ちゃんを病気から守り、丈夫な体に育てる
最近の粉ミルクは栄養面ではかなり母乳に近づける研究がなされています。しかし、赤ちゃんを病原菌から守る感染防御因子の存在までは真似することができません。
不幸にして病気で亡くなられた赤ちゃんの死亡率を調べると、粉ミルクの子は母乳の子の4倍であることが統計的に報告されています。初乳には、細菌やウイルスやアレルギーの原因となる物質の侵入を防ぎ、体内に侵入した異物を退治する効果があります。そしてこれらの免疫物質は成乳にも含まれています。
栄養摂取の主体が母乳から食事に切り替わっていけば、1日の授乳回数は格段に少なくなります。食事量に合わせて授乳回数を次第に減らし、2歳では1日1~2回、健康保管食品・病気予防薬だと思って3歳の誕生日ごろまで与え続けたいものなのです。
母乳育児は大脳皮質をめざましく育てる
人間の赤ちゃんは運動機能よりも大脳皮質を発達させていきます。生後3年間に複雑で豊かな感情を学び、人見知りを通して他人との高度なコミュニケーションの基盤を作り、そして言語能力と知能を驚くほど発達させていきます。
母乳は脳の発達に必要な乳糖が非常に多く含まれている
このような人間特有の発育過程に応じて、母乳には牛乳に比べて筋肉や体を作るタンパク質が少なく、かわりに脳が発達するためのエネルギーである乳糖が非常に多く含まれています。さらに脳や目の発達に欠かせないタウリンというアミノ酸も豊富に含まれており、てんかん発作を抑える働きや、心臓や肺の機能を正常に保つ働きもあります。そして乳児発育に適切な量のカルシウムとリンも含んでいます。
牛乳に比べ母乳はミネラル含有量が少ないと言われますが、ミネラル分が多いと腎機能に負担がかかります。子どもの腎機能が十分に発達するのは8~9歳ごろといわれているので、母乳のミネラル含有量が理想的なのです。
近年、母乳育児は見直されている
母乳育児のよさが改めて見なおされるようになった結果、ある大手育児用品メーカーが実施したアンケートによると、2004年には、母乳育児が44%、混合が23%、ミルクのみが33%だったのに対し、2007年には母乳56%、混合41%、ミルクのみはなんと3%にまで激減していました。
混合の方でも27%はほぼ母乳がメインでミルクも足すということですので、数ヵ月で完全母乳に移行可能です。するとほぼミルクのみという方は17%ということになり、よって83%の人がほぼ母乳メインで育児できるようになったのです。3年間で2倍に増えていることになります。お母さまや医療関係者、そして世の中全体の意識さえ変われば、誰にでも母乳育児は可能だということの証明ではないでしょうか。
ふたたび母乳育児を試してみる時の方法
生後8ヵ月未満でミルク育児をしていて、もしもまだ母乳育児できないか試してみたいという方は、ミルクの前に30秒~1分程度お母さんの乳首をくわえさせてみましょう。
母乳が分泌されるためには、お母さんの脳の中で赤ちゃんの反応に応じて信号が発信されるシステムを作り上げなければなりません。母乳が作られるにはプロラクチンというホルモンの分泌が不可欠ですが、これは妊娠・出産したからといって十分な量が出るものではありません。赤ちゃんが何回も乳頭に刺激を与えることでようやく少しずつ分泌されるようになってきます。
このシステムは出産直後がもっとも確立しやすく、今まったく母乳が出る気配がない、ということでしたら3~4ヵ月かかるかもしれないですし、今からでは出ない可能性もあります。ダメもとでやってみようという方は、子どもが病気にならないおまじないというつもりで気楽にチャレンジしてみましょう。
まとめ:自然の摂理を信じて、構えずに母乳育児をしよう
いかがでしたでしょうか?
母乳を与えるということが、いかに各々の子どもの状態に適するように制御されるかということ、それゆえに世間の「標準」に無理に合わせるほうが母子双方によくない部分がある、ということが理解できたかと思います。
どうしても最初はおっぱいが出ないと不安になったり、赤ちゃんがおっぱいを飲まないと不安になりますが、必要以上に心配せず、長年の大自然の摂理を信じて大きく構えて母乳育児をしてみましょう。
次のコラムNo.114「母乳育児は難しくない②~母乳育児のコツを学ぼう~」では、母乳育児をしていくなかで、よく出てくる悩みにスポットを当てて、対処法や心構えを記載しています。よかったらあわせて読んでみくださいね。
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